20070919

ちいさな旅の一日:3:オロフレ峠を越えてゆけ(後編)

去年の日本チャンピオンだった別府史之は
現在、日本人でただひとりプロツールチームに所属している選手だ。
その兄である、山岳スペシャリスト別府匠が
集団から逃げ出した小集団からも、さらに逃げ出し、
たったひとりで先頭を走り
濃い霧のなかからオロフレ峠に姿を現した。
争う相手はなく、後続を気にするまでもなく
下り坂に備えてウインドブレーカーに袖を通しながら
ゆうゆうと山岳ポイントを一位通過していった。
PSBをカンカン鳴らして応援する。


 オロフレ峠いちばん乗りの別府選手
(photo : ゆうすけ/gl(ジーエル)


ややしばらくして、また、霧の向こうにシルエットが浮かんでくる。
オーストラリアのショウと、去年の総合優勝・西谷が来る。
またPSBを鳴らして応援。

そのあとは、いくつかの小さな固まりになって選手たちが通っていく。
平地のようにスピードに乗っているわけでもなく
集団も少ない人数に分断されているのだけど
だんだん個人の判別をつけるのも難しくなっていく。
そんななかでも判別できる選手というのは、
やっぱりオーラを発しているのだろうか。


 リーダージャージの新城選手
(photo : さとみちゃん/gl(ジーエル)


僕は、もちろん、新聞紙を渡しに出たりはできなかった。
黄色い兄さんが渡しているのを見ているだけでもドキドキした。
意外とたくさんの選手が新聞紙を受け取っていく。

いくつかの集団が峠を越えていった。
チームカーの隊列が走り去り、救急車も去っていった。
「救急車が行ったから、もう終わり」とNIPPOおじさんから聞いて
いったん車に戻った。
NIPPOおじさんたちも、ミーハー姉さんたちも、各自の車に戻った。
スタッフも山岳ポイントを撤収していた。
でも、黄色い兄さんたち数名はまだ道に立っていた。
まだ来るのかも、と思って、ゆうすけと僕もコースまで戻った。

そうしたら、ひとりの選手がヨロヨロと峠を登ってきた。
「パンク・・・」とつぶやいて通りすぎ、
山岳ポイントを過ぎたところで自転車を降りてしまった。
韓国人の選手だった。
あとから調べたら、グォン・ヒューソク選手。
ホイール交換をしなければ山を下ることはできない状態。
だけど、チームカーはとっくに行ってしまったあと。
なすすべもなく座り込むグォン選手。
お菓子をもって歩み寄る黄色い兄さん。

そこへ、なぜか遅れてやってきた北海道大学のチームカー。
黄色い兄さんが、シマノ10段のホイールを貸せと声をかける。
黄色い兄さんはホイール交換も手伝って、グォン選手を送り出す。
グォン選手はヨロヨロと峠を越えていった。

 送り出されるグォン選手
(photo : ゆうすけ/gl(ジーエル)


第5ステージ結果によると、グォン選手はDNF=DO NOT FINISH。
その後、どこかでリタイアしたらしい。

最後にほうきを掲げた車が過ぎていった。
今度こそほんとうに、レースはオロフレ峠を越えていった。

オロフレ峠の観戦は、これでおしまい。
でも、ちいさな旅の一日は、まだ午前中。
「4につづく」!


オロフレ峠の動画がこちらにあります。
僕たちはほとんど映っていないけど
フリースを取りにいって、道路の反対側に取り残されたさとみちゃんだけは
青い残像となって映っているのが見えます。