20070920

ちいさな旅の一日:4:縄文からもベルギーからも遠く離れて

もともと雨の予報だったこともあって
オロフレ峠での「ツール・ド・北海道」観戦を終える頃には
すっかり身体が冷えきっているだろうと、予想していた。
だから、ちゃんと次の予定は立てていて、
峠を下って次に目指したのは、温泉だ。
あらかじめ選んでおいたとおり
白老町の虎杖浜温泉「ホテルいずみ」へ向かう。

虎杖浜は古くは「アヨロ」という地名で呼ばれていた。
アイヌ語の「アイ・オロ・オ(川のなかに矢を収めるところ)」が
転訛して「アヨロ」になったという。
続縄文期の遺跡があり、矢尻も発見されているのだという。
続縄文時代の人々が、川に矢を収めたのかもしれない。
そのことを、アイヌ語は知っていたのかもしれない。
そうかもしれないと思うと
あまりにも遥か遠い時間のつらなりに、茫然とする。

「ホテルいずみ」の日帰り入浴料金は、たったの500円だ。
たったの500円で、海に臨む、きれいな露天風呂を楽しめる。
しかも、まだ午前中だったせいか、貸し切り状態だ。
野鳥の声が聞こえる。
たまに野趣をアピールするために
スピーカーで野鳥の声を流している露天風呂があるが
ここのはリアル野鳥の声が聞こえてくる。
パークゴルフの歓声と、カラオケの熱唱も、
ちょっと聞こえるけど、気にしない。

貸し切り状態の露天風呂で、冷えた身体を温める。
ぬるめの湯なので、ほどよく温まる。
湯から出るとすぐ冷めて、また入るとほどよく温まる。
だからついつい、いつまでも出たり入ったりしてしまう。

湯につかりながら、オロフレ峠の観客の数は
やはりどうも寂しいものだったと、ゆうすけと話し合う。
もっと盛り上がるとよいのにと思う。

自転車が国技だとも言われる国がある。
ベルギーだ。
伝説のチャンピオン、エディ・メルクスの国である。
灰色の脳細胞をもつエルキュール・ポアロの国でもある。
チョコレートとワッフルが有名である。

ベルギーのおじさんたちは
自転車の議論を肴にして酒を飲むという。
ベルギーのおばさんたちは
ママチャリで風よけの先頭交代をするという。
どこまでほんとうか知らないけど、そのぐらい
ロードレースには熱烈な応援が向けられ、
生活のなかにも文化として根づいているのだろう。

競技としても、交通手段としても
日本における自転車は、日陰ものだ。
ベルギーみたいな自転車文化は夢のまた夢、遠い夢。
温泉で、そんな夢を思い描いていた。

温泉のことを英語では「SPA」という。
この言葉は、ローマ時代からの歴史をもつ温泉地「スパー」が
語源になっているそうだ。
温泉地「スパー」はベルギーの東部、ドイツとの国境近くに位置する。

ちょっとでも願うことは、一応言っておこう。
「いつかベルギーを自転車で走って
 スパーの風呂に入ってみたい!」