20100208

第6位:星くずのストラバイト☆

はーちゃんが我が家にきて3周年を記念し
この3年間のはーちゃんにまつわる思い出を
カウントダウン形式で振り返ろうという企画です。


それは、ある朝、突然に訪れた。
突然の激痛だった。
起きて、トイレで用を足して、
あれ、なんかへんだなと思ったときには
激痛に襲われ、ソファにへたりこみ、
痛いと言うこともできずに、悶え苦しんだ。

あとから思えば予兆はあったのだ。
数週間前から、腰のあたりにモヤモヤとした
痛いのでも怠いのでもないような
おかしな感じがあった。
結石の予兆は腹ではなく腰に現れるのだ。

タンカに乗せられ、担がれ、運ばれ、
救急車のベッドに寝かされた。
何か質問されていたが、
痛みのあまり答えられそうになかった。
そのとき、たいへんなことに気がついた。
私に質問をしている救急隊員が
たいへんな美人だったのだ。
美人救急隊員が私に何か尋ねている。
いつから痛かったのか、とか
どう痛いのか、とか
そんなことを訊いていたのだろうが
痛くて答えられない。
痛くて答えられないのだと
表情で示すことしかできなかった。

ほんとうは、美人救急隊員の手前
痛い顔なんてしたくなかった。
すごく痛いけど痛くなんてないさって顔をしたかった。
そのとき、また、たいへんなことに気がついた。
さっきまでの、あの、天変地異でも起こったような激痛が
なんだかちょっと収まりつつあるようだった。
まだ救急車は病院に向かって走っている。
あくまでも単に職務であるとはいえ
美人救急隊員は私に寄り添っている。
痛みが消えるのはありがたいのだが、
痛みが消えたことを伝えるのは情けなかった。

あのー、なんか、痛くなくなってきたみたいで、すみません。
なぜ謝らねばならないのか。
肩身の狭い気分になったところで
救急車は病院に到着した。
私はタンカも必要とせず、歩いて救急車を降りた。
美人救急隊員と救急車は
私を残してあっさりと引き上げていった。
早朝の病院の廊下に
私はひとり、ぽつんと座っていた。

たぶん尿管結石だったのだろう。
朝のトイレで結石が動いて激痛を引き起こし、
しかし救急車の揺れで結石がまた動いて痛みは消えた。
そのまま石は見つからずじまいだった。

以上、私の個人的な経験を述べたのは、つまり、
結石を患ったはーちゃんがどれほどの苦しみを味わったか
ほんとうに理解できるのは
結石の痛みを味わった者だけであることを言いたいがためである。
あの痛み、あの肩身の狭さ、
結石になった者にしか理解できまい。

はーちゃんの尿問題については
ヨッコが事細かに記録しているので
あえて繰り返さない。
ストラバイト結石に、膀胱炎。
泌尿器の弱さは父親(やきそば)ゆずりらしく
同じ主治医の治療を受けている。

はーちゃんにとっては
結石そのものよりも、病院が恐ろしかったかもしれない。
病院には犬がいたりもする。
でも犬より恐いのはセンセイだ。
おしりに体温計を入れられるのは我慢しよう。
注射チックンだって、まだ我慢しよう。
薬をぐいぐい飲み込まされるのだって、我慢しよう。
だけど、あれだけは、だめだ。

オシッコの検査のために、
センセイははーちゃんの尿管に細い管を差し込んだ。
そのときのはーちゃんの声は、
あとにもさきにも聞いたことのない
低く、太く、獰猛な声だった。
ゴロニャンとか、ミャアミャアとか、そういう
ネコの鳴き声ではなく、
ウオーというか、グアーというか、
ネコ科の何か(ライオンとかトラとか)の咆哮だった。
ほんとうのほんとうはあれがネコの本性なのかなと
そのとき以来たまに考えている。


はーちゃんはほとんど悪さをしないし
幼少期を想像すると痛々しい気持ちになるほど
しつけが徹底されている。
たとえば、テーブルには乗らない、明るいうちは。
暗くなるとこっそり乗るが。
トイレの失敗だって、なかった。
だけど、たった一度、私のふとんに粗相をした。
なんか臭いなーと思ったら、シミができていた。
それは結石を訴えるサインだった。

つらかったのだろう、苦しかったのだろう。
ふだんはトイレ以外では絶対にしない。
結石の苦しみのあまり、私の布団にしてしまった。
結石の苦しみを知る私は、はーちゃんに同情的だ。
粗相くらいは仕方がない。
気にするほどのことじゃない。

ただ、しかし、問題は
なぜ私の布団だったのか、ということだ。
はーちゃんはいつも、ヨッコの布団に乗る。
ヨッコの布団に乗って、寝る。
私の布団は、せいぜい横切る程度だ。
なのに、なぜ。
そんなときに限って、私の布団だったのか。
ヨッコの布団でもよかったのではないか。
粗相に際して、あえて私の布団を選んだのか。

そこのところは、
はーちゃんが全快してから問い詰めたが
「さあ、なんのことかしら」という顔で無視された。
はーちゃん、このことは忘れませんからね。