5日目、5人の「逃げ」に《ティンコフ》のブルが入った。
07年ジロで、最終的に強い印象を残したのは
逃げるブルがなびかせていた後ろ髪、
逃げるイグナチェフが深い前傾姿勢で突き上げた尻、
とにかく毎日逃げる《ティンコフ》ではなかったか。
どうせ集団スプリントになるステージ、
「逃げ」の勝ち目なんてほとんどないのだけど、
《ティンコフ》が逃げないことには、盛り上がらない。
……なんて、第3ステージと同じことを思っていたら
思いがけずブルが勝ってしまった。
幸運の女神に後ろ髪はない。幸運なブルの後ろ髪は長い。
ひさびさ、大きな歓声を上げてしまった。
落車で遅れたロビー・マキュアンが、いつのまにか前線復帰して
まさかのスプリント勝利した07年ツール第1ステージ以来だろうか。
今日の「逃げ」の中心人物は
なんといってもイギリスナショナルチャンピオンのデイヴィッド・ミラーだった。
ミラーが入っていたことが逃げ集団を鼓舞し、
また、メイン集団に「逃げ容認」させたのではないか。
そして、たぶん、なにごともなければ、ミラーが勝っていたのではないか。
だけど、ブルがアタックをかけると同時に、ミラーはメカトラブルで止まってしまった。
止まって、バイクを持ち上げ、投げてしまった。
バイクを投げる、と言うと、
カンピオニッシモの息子、アクセル・メルクスを思い出す。
07年ジロ、第4ステージ。
落車して、腹を立てたアクセル・メルクスが、自転車を投げた。
でも、待っていてもチームカーが来ないのでバイク交換できず
結局は投げ飛ばしたバイクに乗ってリスタートした。
逃げメンバーのひとり、《ゲロルシュタイナー》のフレーリンガーは
「ブルはミラーのトラブルを利用した」と非難しているけど
ブルのアタックはミラーのトラブルより早いか、少なくともほぼ同時で、
利用したわけではないと思う。
《ティンコフ》、Tinkoff Credit Systems。
ロシアの大富豪、オレグ・ティンコフが07年に設立。
《Tモバイル》を解雇されたヤン・ウルリッヒ獲得に興味を見せるなど
ヨゴレも気にしない、なりふり構わぬ選手獲得で話題になった。
結局ウルリッヒは引退し、《ティンコフ》で走ることはなかったが
07年ジロでのブル、イグナチェフの逃げっぷりが目立ちに目立って、
ずいぶん強い印象を残した。
ジロに先立つ、07年ツールドランカウイ、第9ステージ。
《メイタン》新城幸也のアタックから13人の「逃げ」が形成され
この逃げ集団のなか、最後まで残った4人のスプリントを制し、ブルが区間優勝。
これが《ティンコフ》の最初の勝利になった。
Pavel Brutt、カタカナ表記にばらつきがある。
サイクリングタイムでは「ブラット」、Jスポーツでは「ブル」。
他に「ブルツ」とされている場合もある。どれがほんとうか。
トルストイなどを好む文学青年だと言う。好感度さらにアップ。
ブルの優勝は嬉しかった。
次はミハイル・イグナチェフのかっこいいところを見たい。
今年、イグナチェフはまだ逃げてない。どうしたのか。
今年の《ティンコフ》はアルベルト・ロッドのために
トレイン形成したりもしているので
逃げてばかりもいられないのかもしれない。