20080517

ジロ読み(7°Tappa):1つのステージで同時進行する3つのレース

自転車ロードレースのもつ独特の面白さを簡潔に表現するならば、
「 多様性 」ではないかと思う。
大集団で走っている自転車選手たちは同じく走っているようで
実はそれぞれ別のことを考えている。

自転車ロードレースというのは、興味のない人からすれば
「自転車のマラソン」に見えるだろうが、実はぜんぜん違う。
マラソン選手の思惑はたったひとつだろう。
すべてのマラソン選手は、たったひとつの目的のために走っている。
つまり、ちょっとでも早くゴールへ辿りつくこと。
その目的のために、勝つか負けるかはともかく、
ペース配分をしつつも、自分の力の許す限り、速く走ろうとするだろう。

だけど、ロードレースでは、ひとりひとり、そのときそのとき、
目的や、役割や、思惑が、まったく違っている。
そういう多様性の絡まり具合がロードレースの面白みで、
最初の山岳ステージしかも頂上ゴールの第7ステージには
その面白みが凝縮されていた。

目的が多様であるため、いくつかの異なる争いが同時に行われている。
別の言い方をすれば、一緒に走っているのに、別のレースをしていることになる。
第7ステージでは、いくつかのレースが同時進行していた。

ひとつには、「今日のステージ優勝をかけたレース」。
このレースの参加者は、
《LPR》ボジージオ、《ナヴィガーレ》セッラ、《ティンコフ》キリエンカら、
逃げ切りを確実にした時点で残っていた先頭集団5名。
キリエンカという名前を聞いて、落語家みたいな名前だなと思った。
前落語協会会長の三代目三遊亭圓歌には、若圓歌、小円歌という弟子がいる。
その流れで、三遊亭キリエンカ。漢字をあてるなら「桐圓歌」かな。
ヴァシル・キリエンカ、08年世界選手権ポイントレース優勝者。
トラックでも活躍するロードレーサーと言えば
第4ステージ優勝のカヴェンディッシュのように
スプリンターが多いだろうと思うのだけど
キリエンカは山岳ステージの頂上ゴールで2位になった。
《ティンコフ》には気になる選手が多い。
ボジージオがアタック、パンクしたセッラが遅れ、
キリエンカが追うが、ボジージオがステージ優勝。

その後方で、また別のレースも進行していた。
最終的な総合優勝を狙う選手たちによる「時間差を稼いでおきたいレース」。
《サウニエルドゥバル》リッコ’、《LPR》ディルーカ、《アスタナ》コンタドール、
優勝候補のうち3人がメイン集団から抜け出した。
3人と一緒に小集団に入った07年「山の王」ピエポリは、
このレースに参加してはいない。
一緒に走っていても、リッコ’のアシストなので、争いの当事者ではない。
参加しているようでいて、実は参加していない。ただリッコ’を助けている。
小集団に入った3人が勝ち組、入れなかった優勝候補は負け組。
まだ先は長いけど、勝ち組3人は、まずちょっと有利になった。
負け組で不利になったのは
《チェッラメンティ》シモーニ、《アスタナ》クレーデン、
《ラボバンク》メンショフあたり。

《LPR》は、ボジージオの区間レースと、ディルーカの総合レース、
両方に参加していたので、チーム戦略としては支離滅裂に見えたが、
結局は両方とも成功した恰好だ。

ピエポリは今年も強い。
07年、シモーニとリッコの献身的なアシストとして働き、
ふたりのエースそれぞれに1勝ずつ譲って、さらに自身も1勝。実質、3勝分。
ついでのように山岳賞を獲得。名実ともに「山の王」。
ピエポリがエースでも戦えそうだが、リッコのアシストに徹するようだ。
関係ないけど、今のところの山岳賞ランキング上位に
「Pietropolli」という名前があって、一瞬ピエポリかと思った。
でもピエポリは「piepoli」、「pietropolli」はピエトロポッリ。
ピエトロポッリは《LPR》、ディルーカのアシストだ。
山岳ポイントの100円貯金をしているようだけど、狙っているのかな。
ピエポリとピエトロポッリの山岳賞争いになったらややこしいけど
まあ、ないか。

第7ステージでは、まだ、もうひとつ別のレースもあった。
「とりあえず今日のところのマリアローザが欲しいレース」。
どうせミラノまで守り続けられないけど、ちょっとでも着たいピンク。
参加者は《クイックステップ》ヴィスコンティと《ゲロルシュタイナー》ルス。
昨日のゴール時点で、ふたりは同タイム。
着順合計でヴィスコンティがマリアローザを着て、ルスは悔しい。
悔しいのでヴィスコンティを徹底マークし、奪おうと狙うルス。
だけど、9秒差をつけてヴィスコンティがマリアローザを守った。
まあ、仕方がない。
「虹のジャージ」を着た世界チャンピオン、ベッティーニが
ヴィスコンティのアシストをしていたのだから。